仙台高等裁判所秋田支部 昭和32年(う)79号 判決
弁護人甲の控訴趣意第一、弁護人乙の控訴趣意第一点の一、二並に第二点及び弁護人丙の控訴趣意第一点について。原判決がその判示第一の罪となるべき事実の関係証拠として挙示する各証拠殊に被告人等の原審公判廷における各供述記載及び被告人等の司法警察員に対する昭和三十二年三月四日附各供述調書の記載を検討し更に当審において取調べた証人鶴野清、同木村春蔵の各供述記載及び検証調書の記載を参酌して考察すれば被告人加藤貫治は弘前市内の博徒で被告人関川敏郎、同田中正清の両名をその輩下としておるものであるが被害者鶴野清は嘗て被告人加藤貫治と遊戯場の共同経営を試みて失敗しその頃同被告人方に寄食し且つ金銭的にも迷惑をかけていたので同被告人に対しては恩を受けていた間柄であつたにも拘らず昭和三十二年三月一日夜弘前市新開地遊戯場「たまや」において開張された賭博場にいかさま師(詐欺賭博師)を手引きして被告人等に思わざる損害を被らしめたところから被告人等は憤慨して先づいかさま師の居所を突止めるべく同月二日午後十時頃同人を被告人加藤貫治方に拉し来り被告人加藤貫治において「いかさま師を何処えやつたか」等と詰問した後木刀(証第一号)をもつて殴打暴行を加え被告人関川敏郎、同田中正清の両名もこれに共同して同人の肩を押え或は荒繩(証第二号)をもつて両手を後ろ手に縛るなどの暴行を加えもつて同人に対し加療約二週間を要する頭部、顔面、打撲裂創並に両肩打撲傷を負わしめたこと、及び右の責苦に耐え兼ねた鶴野清が自己の非を認めていかさま師を手引した事実を告白するや被告人加藤貫治は更に憤激を募らせ抗拒不能の状態にあつたのに乗じこれまで同人に施した恩恵の品々を取返すべく決意しその場で「お前には貸した金があるから銭こ出せ」と申向けたところ被告人関川敏郎もこれに同調し両被告人は茲に犯意を相通じて反抗を抑圧されて被告人等のなすがままに委せていた鶴野清の着衣のポケット等から同人所有の現金一万五千五百円等原判示金品を取出しこれを強取したこと。しかして被告人田中正清は右財物強取の際は被告人加藤貫治に命ぜられ上原某外一名を呼寄せるべく外出していてその場に居合せず右犯行に加担しておらないことの各事実を認定することができる。右認定と異なる被告人等の原審公判廷における供述部分は前掲の各証拠に照らし事実を述べていないものと判断せざるをえない。被告人加藤貫治は貸金の返済を求めたに過ぎず且つ被害者鶴野清に反抗を抑圧された状況を認めえないとなす弁護人の所論はにわかに替同し難く他に右認定を覆すに足る証拠がない。そして原判決における事実認定によると被告人等は賭博に負けた損失金を取戻すべく共謀の上鶴野清に対し前記暴行を加えその反抗を抑圧して同人より前記金品を強取しその際同人に対し前説示の傷害を負わしめたというにあるが被告人等は前認定のように鶴野清がいかさま師の手引をなしたことを憤慨して暴行を加え傷害を負わしめたものであり、被告人加藤貫治、同関川敏郎の両名は更にその後犯意を新にして同人より金品を強取したものであつて強盗の犯意は鶴野清に対する暴行を当初より存したものでなく又被告人田中正清が右強盗の犯行に加担したと認めることはできないのである。してみれば被告人等に係る前記認定の所為は被告人等三名共謀による傷害罪及び被告人加藤貫治、同関川敏郎の共謀による強盗罪と二個の訴因事実を認定するを相当とすべく従つて原判決はこの点において判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認の違法を冒したものといわなければならない。論旨は理由がある。そして右事実は他の原判示事実とともに刑法第四十五条前段の併合罪の関係において裁判されたのであるから原判決は全部破棄を免れない。
(裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 小田倉勝衛 裁判官 三浦克己)